†NOVEL†

「あっ、かごめちゃーん。」

私の姿を見付けたのだろう。
上空から私の好きな天使が声を掛けてきた。

「あら、ポエット…。」

彼女が私の前にふわりと着地するのと同時に私も声をか掛けた。

「今日はどうしたの…?」
「ちょっとお散歩。かごめちゃんは?」
「私もそんなところね…。」
「そっか〜。それじゃあ一緒にお散歩しない?」

天使は…ポエットは少し思案してから聞いてきた。
私はこの言葉を待っていたのかもしれない…。

「えぇ、いいわよ…。」
「やった〜。じゃああの公園まで行こっ?」

私の答えに嬉しそうな笑顔で歩き出すポエット。
本当に可愛いんだから…。
この見習い天使が何度私の為の天使だったらと思った事か。
でもこの天使を独占するのは時間が掛かりそう…。
全く邪魔者が多すぎて…。


そんな事を考えているうちに公園に到着してしまった。
此処は私達が最初出会った場所。思い出の場所…。

「此処でポエット達初めて会ったんだよね」

彼女も覚えていてくれたのがとても嬉しかった。

「そうね…。」

私らしくないが、自然と笑みが零れてしまう。
きっとポエットといる時間程笑顔になってしまう私はいないだろう…。

「ちょっとのんびりしていこ?」

ポエットはベンチを指差しながら首を傾げている。
そんな彼女の意見を無下にする事など出来る筈もなく、私は小さく頷いた。
そして先程と同じように嬉しそうな笑顔を浮かべては、パタパタとベンチの方に駈けて行く。
私もそれに続いた。
先に到着したポエットは既に座っていて、私はその隣に腰かけた。

「そう言えばこれね、アッシュちゃんが作ってくれたの。」

そう言いながらポエットは、可愛らしく包装されている小さな袋を取り出した。

「これは?」
「クッキーだって。お散歩行くって言ったらアッシュちゃんが詰めてくれたの。」

説明しながら包装を解いていくポエット。
中には様々な形のクッキーが入っていた。
如何にもポエットが好きそうな感じ…。

「かごめちゃんも一緒に食べよ?」
「…えぇ、頂くわ。」

本当は私の敵である奴のクッキーなんか食べたくなかったけど…。
ポエットに差し出されたら食べない訳にはいかなかった。
一口食べると、正しくそれはポエットが好きそうな味全開だった。

「美味しい?」

目を輝かせながら私に感想を聞いてくる天然天使。

「美味しいわ…。」

味は悪くはないが、心にもないことを言っておく。
でもポエットは何の疑いもなしに、「アッシュちゃんに伝えておくね。」と笑顔で言った。 私は少し複雑に思いながらも、クッキーを口に入れた。
アッシュ…私の邪魔者の一人。
料理が上手で家事なんかもこなしているらしい。
言わばみんなのお母さん的存在だ、とポエットが言っていた気がする。
でも彼はそこまで強敵じゃない。
私の中では1番下に見ている。
でも勿論、油断はしないわ。


「ふぅ、美味しかったね」

味は悪くなかったクッキーを食べ終えて、一息吐く私と可愛い天使。
何だか幸せな時間…。


「あっ、かごめちゃんこの本知ってる?」

何かを思い出したように、1冊の本を私に見せてきた。
本を見て考えるも見覚えがないので私は首を横に振った。

「そっか〜…。この本ね、ミシェルさんのお勧めだったんだけど、すっごく面白かったんだよ?ポエットでもすごく読みやすかったし。」

言いながらポエットは本のページをパラパラと捲っている。
ミシェルも私の邪魔者…。
図書館で司書をしているらしいけど詳しいことはポエットにも分からないらしい。
でも何だか危ない感じがして私的には近付かないでもらいたいわ。
一緒に住んでいないのが唯一の救いね…。
アッシュよりは警戒すべき人物ね…。

「あー!!」

思考を別のところに飛ばしていると、ポエットがいきなり大きな声を上げた。

「…どうしたの?」
「スマちゃんたらこんなの本の中に入れて…。」

そう言いながら私に見せてきたのはギャンブラーZカード。
確かに、こんなもの持ってるのはあの人くらいしかいないわよね。
ポエットは返す前に見つけて良かった、と安堵している様子。
スマイル…勿論私の邪魔者の一人。
今までの2人より警戒を深めている人物。
見るからに怪しそうで、掴み所がなくて私は苦手…。
何をしてくるか分からない以上、1度あの城に行った方がいいのかもしれない…。

「見て見て、かごめちゃん!夕焼けが綺麗だよ〜」

いつの間にか辺りはオレンジ色に染まっていた。
ベンチから見える夕焼けにポエットは見入っているみたい…。
私はそんなポエットの横顔に見入っていた。
そんなとき、背後から突然声が掛けられた。


「ポエット、こんな所にいたのか…。」

振り返らずとも分かる。
この声は、私の1番の邪魔者…ユーリだろう。

「あっ、ユーリ。どうしたの?」

私の予想は当たっていた。
そして、私の幸せな時間は終わった…。

「お前の帰りが遅かったのでな、捜しにきたんだ。」
「そっか…ごめんね?でも今日はかごめちゃんもいるし、大丈夫だよ。」
「ほぅ…。」

背後から視線を感じるので一応振り返ってみると、吸血鬼が此方を訝しげに見ていた。
私の幸せな時間を壊した犯人を私も睨みつけた。
そんな私達の様子を不思議そうに見ているポエット。
ポエットには分からなかったと思けど、私達には睨み合いながら互いの声が聞こえた気がした…

(お前にポエットはやらんぞ…?)
(あなたの許可なんか必要ないわ…。)

そんな私達に耐えられなくなったのか、ポエットが止めに入ってきてくれた。

「な、仲良くしなくちゃ…ね?」
「あぁ、すまないな…。」
「私達は仲良しよ?」

小さく笑ってワザとらしく答える。
ポエットは「本当?」と小首を傾げ、ユーリは不機嫌そうに私を見ている。
でもユーリが「本当だ」と答えればポエットは安心したように笑顔になった。

「今日はポエットが世話になったな…。」

ユーリは言いたくもないことを無理矢理言っているようだった。
いい気味ね…。


「いえ…ポエットは私があなたの城まで送ってあげるから…先に戻っていたら?」
「いや、お前ももう遅いのだから帰った方がいいぞ…。」

飽くまで私とポエットの中を引き裂くのね…。
だったら私にも考えがあるわ…。

「ねぇ、ポエット…?」
「なぁに?」
「今日…泊まりに行ってもいいかしら…?」
「ふぇ?ポエットは大歓迎だけど…。」

そこまで言ってユーリを見遣るポエット。

「いいかな?ユーリ…?」

彼は暫くの沈黙を守り続けた後、重い口を開いた。

「…ポエットの頼みなら仕方あるまい…一緒に来るがいい。」

渋々ながらも許可を得たポエットは嬉しそうにユーリに抱き付いた。

「ありがとう、ユーリ!」
「あぁ…。」

満更でもない吸血鬼に腹が立った…。

「部屋はポエットと一緒でいいよね?」

抱き付いたままのポエットが尋ねる。

「新しい部屋なら腐る程あると思うんだが…。」
「あ…かごめちゃんはどっちがいいかな?」


もちろん…。

「私は同じ部屋で構わないわ」

今回は私の勝ちね、ユーリ…。


*Fin
かごめちゃんは計算高くいてもらいたい私の願望。
心の中では色々な事を考えていてもらいたいものです(笑)

ここまで読んで頂き、ありがとうございました☆
燐月奈亞 2008,5,30

 



[←後ろにばっく]