†NOVEL†
月兎のレイセンは、いつも通り学校の廊下を歩いていた。
すると、そこに通りかかった同じく月兎の生徒がいきなり大声を出した。
「こっち見ないで!」
「えっ?」
いきなり大声を出されたレイセンは、立ち止まり驚いて聞き返した。
「私を惑わせてどうする気?!」
「そんなことしないけど…。」
「嘘ばっかり!あんたなんか地上にでも行っちゃえばいいのよ!気持ち悪い…。」
「…………。」
突然の心無い罵声にレイセンはその場に立ち尽くし、月兎の生徒は走り去ってしまった。
「地上か…。」
それもいいかな…と誰もいなくなった静かな廊下で自嘲的に呟く。
レイセンにとって、罵声を浴びせられることは毎日のことで慣れてしまっていた。
初めのうちは、何故私だけ?私が何をしたの?と疑問が取り巻き苦悩していたが、今は気にしないようにするしかないと考えを改めた。
今でも罵声を言われる理由は分かっていない。
そんなある日━━━
教室で自分の席に座って、窓の外で雨が降ってるの眺めているレイセンの周りに複数の生徒が集まってきた。
「何か様…?」
レイセンは嫌な予感がして恐る恐る尋ねた。
「何か様?じゃないわよ。昨日あの子に何をしたの?」
「何の事…?」
「惚けないでよ!今日休んでるの、あんたのせいでしょ?!」
「私は何もしてな…」
「嘘!あの子昨日あんたに見られたって言ってたもの!いつも何か言われてる腹いせに、その目で何かしたんじゃないの?!」
複数に責め立てられているレイセンには、喋る間すら与えられない。
「あんたみたいなキケンな人がいると、安心して学校生活を送れないわ…。」
「…。」
「今時紅い目なんてブキミよね〜」
「……。」
「って言うか、死んじゃえばいいのに!」
「………。」
「だよね〜♪あはははは!」
「居なくなってよ?」
「…………。」
「ネェ、消えて?」
「……………。」
「死ね!」
「…っ!!」
最後の言葉を言われた瞬間、レイセンは立ち上がり外へ駆け出して行った。
後ろには下品な笑い声が響いていた。
雨の中、レイセンは行く当てもなく走り続けた。
気が付けば、どこかの路地裏に入り込んでしまっていた。
そこで今まで溜め込んでいたものが一気に爆発してしまい、大きな声で嗚咽し、泣き出してしまった。
レイセンの心は怒りと、悔しさと、哀しみとでいっぱいだった。
そして初めて心が折れるという感覚に陥った…。
路地裏で暫く泣いていると、突然自分のいるところだけ雨が止んだ。
不思議に思ったレイセンがゆっくりと顔を上げるとそこには、長い黒髪の少女が傘を持って立っていた。
「大丈夫?」
少女は小首を傾げて聞いてきた。
「あ、あんた…誰よ?」
「私?私は輝夜。蓬莱山輝夜」
(輝夜…?まさかね)
少女は名乗ると自分のポケットからハンカチを取り出し、しゃがんでレイセンの涙を優しく拭き取ってあげた。
「あ、ありがと…。」
「いいえ、どういたしまして。」
にこりと微笑んでみせる輝夜。
「あんた…。」
「ん?」
「あんた、私が恐くないの…?」
「恐い?どうして?」
「だって…ほら…。」
学校で言われた事を思い出したレイセンは口ごもり、俯いてしまった。
それを見ていた輝夜はハンカチを仕舞い、傘を肩に挟んで両手を開けた。
そして、その両手でレイセンの顔を優しく包んで顔を上げさせた。
「なっ…!」
レイセンは突然の事に顔を赤面させる。
「貴女…綺麗な目をしてるのね」
「…ぇ?」
「とっても綺麗。まるで真っ赤な宝石でも見ている様だわ。」
輝夜はその目で、レイセンの瞳をじっと見つめている。
「じ、冗談はやめてよ!」
そう言うとレイセンは輝夜の手を振り払い、バッと立ち上がった。
「冗談なんかじゃないわ?」
言いながら輝夜も立ち上がる。
「私は狂気を操れるのよ?私の目を見てたらあんただっておかしくなるかもしれないのよ?!」
「そう。」
「ちょ…何とも思わないの?!」
「思わないわ?」
「どうしてっ?!」
輝夜の反応に声を荒げるレイセン。
「だって貴女、私に狂気を与えようとなんてしてないでしょ?」
「そんなの分からないじゃない!」
「分かるわ?」
「だから、どうしてっ?!」
「貴女の目を見てたら分かるの。こんな綺麗な目を持っている子が悪さなんてするはずないもの」
輝夜は口元に手を当てながら、くすっと笑った。
それを見たレイセンは諦めた様にため息を吐く。
「ねぇ?貴女、私と一緒に地上に行きましょ?」
「えっ?」
「私には、もう月にいる資格がないの…だから行きましょ?」
レイセンは考えていた。
何もしていないのに、酷い事を言われ続けた私は月(ここ)にいる必要があるのかと言う事。
あんなに嫌だった自分の目の事を、輝夜は初めて褒めてくれた事…。
一緒に行ったら自分は幸せになれるんじゃないか…━━━
「いいわよ。一緒に行ってあげる。」
「じゃあ決まりね。」
これからよろしくね?と行って手を差し出す輝夜。
その手を掴んで握手を交わすレイセン。
「そう言えば」
思い出した様に輝夜が言う。
「貴女の名前をまだ聞いてなかったわね?」
「そうだった。私はレイセン」
「レイセン?ん〜…鈴仙にするって言うのはどう?」
「は?」
「でもそれだけじゃまだインパクトが弱いわね…」
「ちょっと待て」
「イナバ…うん、イナバにしましょう♪改めてよろしくね。イナバ☆」
「勝手に話を進めるなぁー!」
楽しそうな輝夜を横目に、鈴仙はまた溜め息を漏らす。
「ところで、輝夜って何してる人?」
「姫」
即答する輝夜。
「はい?」
「追放されたから逃げてる最中だけど…。」
「もしかして輝夜って…かぐや姫?!」
「そうよ?」
「し、知らなかったとは言え、申し訳ありません姫様…。」
「気にしないで?輝夜でいいわよ?」
「いえ、そうはいきません姫様。」
「そう?まぁ、いいわ。…兎なんて拾って帰ったらまた永琳に怒られちゃうかしら?」
「拾ったって…」
そんな会話をしながら鈴仙は輝夜の傘を受け取り、家路に就くのであった。
*Fin
姫。
さらりと言える辺りが姫ですよね〜(は
オリジナル要素が満載過ぎて申し訳ありませんでした;
ここまで読んで頂き、ありがとうございました☆
燐月奈亞 2008,1,28
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