†NOVEL†

 幻想郷何度目かの夏。
 眩く照らす日の光りは容赦なく幻想郷内の気温を高め、神社に住む巫女のやる気を削ぐ。元々やる気があるかと言われれば最初からないのだが、それでもこの暑さはどうにかしたい。

「あー、もう…暑い…。やる気しなーい…。」

 ぐだーっと、戸を全開にした部屋の中で紅白の巫女は両手を広げ、大の字で天井を見上げた後、恨めしそうに外を見つめる。
 ふと部屋の中に視線を移せば、そこには様々な物がグチャグチャに置かれた大惨事の宴会場があった。それを見て盛大に溜め息を吐いた霊夢は再び天井を傍観する。

「…萃の力は大いに結構、片付けくらいしてくれればいいんだけど。」

 蒸し暑い部屋の中、霊夢の呟きは虫の鳴き声や鳥の鳴き声にとけて消える。先日は宴会があった。もちろん萃香の力によるものだが、最近なんだか集まる人数がどうかしている。いくらなんでも多すぎるのだ。萃香は集めるだけ集めて手伝いはほとんどしてくれないし、集まるメンバーに関してもそれは同じである。
 結局、迷惑するのは霊夢一人で他のメンバーは楽しんでは帰っていく。

 当然の様に、霊夢一人を神社に残して。





「おーい、霊夢ー。」

 しばらくしたら少しは涼しくなってきたので片付けを始めるとすぐに、よく聞く声から呼び掛けられた。大量の食器を持って振り返ってみれば、そこには勝手に神社に上がりこんでいる魔理沙の姿があった。

「あら、うふうふ魔理沙じゃない。」
「…なんのことだ。」

 ガチャン、と食器を落としそうになったので慌ててバランスを整えると後ろにいる魔理沙を無視して外に歩いていく。魔理沙は振り返るべきじゃない、と片手を額に当ててその後に続いた。

「で、なによ。」

 食器を手押し井戸の洗い場へと置くと、ちゃっかりと建物の日陰に入った状態で魔理沙の方へと振り返る。

「宴会の片付けが大変そうだから手伝いに…」
「来るわけないでしょ、あんたが。」

 魔理沙が言い終わる前につまらなそうに突っ込みを入れると、水口に食器を置いてしゃがみこむと、ハンドルを指差して水を出せ、とアイコンタクト。

「結局手伝わせるんだな。」
「働かざるもの食うべからず。別件で来たんだろうけど、これくらい手伝いなさい。」

 まぁ別にいいけどな、としぶしぶハンドルを握るとそれを上下させては井戸水を呼び込む。水口から流れてくる水を使って、昨晩の宴会で使われた大量の食器を洗っていった。それが終わる頃には夕刻に近付き、日も沈みかけていた。
 霊夢は魔理沙を連れて神社の中へ戻ると、夕焼けを見ながらやっと魔理沙の話を聞くことにした。

「はい、お茶。」
「貰うぜ。」

 一応は手伝ってくれたので礼儀としてお茶を差し出す。魔理沙はそれを受け取ると座布団の上に伸び伸びと脚を放り出して座る。霊夢は魔理沙の隣に静かに正座すると、両手でお茶をすすりながら横目で魔理沙を見た。

「で?」
「ああ、やっと聞く気になったのか。」
「当たり前じゃない、あんたと違って暇じゃないのよ。…暇だけど。」

 片付けをしている時はめんどくさいのか全く聞く耳持たなかった霊夢も、いざ仕事が終わればこうして話を聞く。参拝客などはいつも通りいないため、宴会などがない限りは確かに暇なのである。

「最近、なんか変じゃないか?」
「変って、なにがよ。」

 魔理沙の言葉に霊夢は興味なさ気にきょとんと首を傾げる。魔理沙はふぅ、と溜め息を吐くと夕焼けを見つめた。

「私は動くぜ。嫌な予感がするからな。」
「…そう。私、人里には興味ないもの。」
「興味あるのは参拝者と賽銭箱か?」
「あたり。」

 分かってるじゃないか、と魔理沙は内心溜め息を吐いて立ち上がった。飲み終わったお茶を床に置くとそのまま外に出ようとして。

「で、アンタはどう思ってるの?」

 突然霊夢が喋り出したので自分に対してかと思って振り返ってみると、霊夢は自分ではなく、神社の部屋の中に視線を送っている。何かと思い魔理沙も霊夢が向いている方向に視線を移す。

「あら、気付いてたのね。」

 そこにはいつからいたのか、紫の姿があった。紫はスキマから上半身だけを出して楽しそうにこちらを見ている。霊夢は紫に背を向けると再びお茶をすすった。

「覗きはあまりいい趣味じゃないな。」
「本人が気付いていて放置していたのだから覗きにはならないわ。」

 紫はくすくす、と気付いていなかった魔理沙を馬鹿にするかのように愉快そうに笑うとゆっくりとスキマから抜け出て部屋の中に降り立った。魔理沙はバツが悪そうに腕を組みながら、どうやら自分の予感は正しいみたいだな、と当たって欲しくはなかった予想を恨む。

「そうね、ただの人間に害があるだけよ。今のところは。」
「…そう。なら私も少し調べてみるわ。」
「動くなら夜。満月の下にしなさい。」

 紫の言葉を聞いて、少し考えるように沈黙した後で霊夢はそう答えた。それを聞いた紫は満足そうに笑うと新たなスキマを呼び出し、その中へと消えていった。

「…なあ、何しに来たんだ紫のやつ。」
「私に動けってことでしょ。アンタの言葉だけじゃ動く気になれなかったし。」
「そりゃまた、なんでだよ。」
「言ったでしょ、人里には興味ないって。」
「ああ、そういうことか。」

 紫の言葉を思い出そうと天井を見上げて考え込めば、思い当たる節があったのか納得がいったようにポンッと手を叩くと再び夕焼けに向き直った。

「じゃ、私は行くぜ。」
「はい、またね。」

 霊夢はそっけなく返事を返すと、お茶をすすりながら箒に乗って飛んでいく魔理沙の後姿を見送った。

「…で、片付け…まだ終わってないのよね。」

 はぁ、と溜め息を吐けば背後の部屋には先程まで宴会をしていたのかと思わせるほど、机や座布団などが散乱して置き去りになっていた。










*コメント*


はい、一気に上げましたがここまでです。霊夢と魔理沙と紫の会話が意味不明な人は頑張ってください(ぇ



次回、斬れぬものなど…あんまりない!
乞うご期待。(ふざけ過ぎでごめんなさい)
続きはこちら
 



[←後ろにばっく]