†NOVEL†
幻想郷全体を包む日差し。それはここ、冥界も例外ではない。
白玉楼から冥界全体を見渡す冥界の姫はどこかの巫女と同じように恨めしそうに日光を見つめた後、庭で草刈りをしている半人半霊の少女を見つめた。
「はっ…!」
白玉楼の庭にある雑草を一太刀でばっさり刈り取っていく。一太刀で刈り取られるのは数本の雑草ではなく、その直線状数十メートル先まで。さらにはその一閃から平行に左右へと伸びて広い面積を一気に刈り取る。それでもまだ白玉楼の庭は広大らしく、その一太刀では終わりそうになかった。
「妖夢。」
「はい?」
次の一太刀を見舞おうと力を溜めていると、突然話し掛けられた。妖夢は構えていた姿勢を元に戻すと自分の主へと向き直る。
「忙しくなるわ〜。」
「なんですか突然。私は忙しいんですから、これ以上忙しくしないで下さい。」
溜め息混じりに主人の言葉をあしらうと再び自らの武器に力を込める。幽々子の従者として仕えているものの、いつも幽々子に振り回されてばかりいる妖夢は幽々子の発言にまた振り回される危機感を察知したのか先に釘を刺した。
「もう、まだ何も言ってないじゃない。短気は損気よ?」
くすり、と遠くの方で笑ってるかと思いきやいつの間にか妖夢の背後に立っており、気付かない妖夢はそのまま後ろから抱き付かれた。刀に手を添えていたところを突然抱きつかれて、妖夢は無抵抗に押し倒されてうつ伏せになってしまう。
「…あ、危ないじゃないですか幽々子様!…っていうか、なんなんですかもう…」
「ふふふ、いいではないか、いいではないか。」
「よくありません!何言ってるんですか!」
うつ伏せのまま幽々子の言葉に少しだけ頬を染めながら大声を上げる。身動きが取れないのか身体を必死に動かして束縛から抜け出ようと試みるが、幽々子は一向に退くそぶりを見せなかった。
仕方なく妖夢は全身に力を込めると、勢い良く両手を地面に叩き付けてその反動を使って背中に乗っている幽々子ごと一気に起き上がって見せた。もちろん、余裕を曝け出していた幽々子は突然の衝撃に妖夢から離れ、地面に尻餅をついた。
「ん〜…痛いじゃないー…」
地面にぶつけた部分を摩りながら文句を言いながらゆっくり立ち上がると、わざとうるうると涙目で妖夢を見つめた。
「ゆ、幽々子様が悪いんですよ!」
涙目で見つめられれば妖夢はうっ、とたじろぐと少し慌てた様子でそう言葉を連ねると自分には罪はないと主張して辺りに視線を逃がす。そんな様子を見て幽々子は耐え切れずに笑みをこぼし、たじろぐ妖夢の前で愉快そうに笑う。
妖夢は騙された…、と面を食らったように天を仰ぐと小さく溜め息を零した。
「妖夢。」
ふと、場の空気が変わった。
幽々子の言葉が突然、重たくなり先程の軽薄な態度から一変する。その突然の変貌振りに妖夢は何かを察知すると、ゆっくりと顔を上げて主人を見た。
「…お客様よ。」
言われ、周囲を見渡すといつからいたのか、白玉楼の入り口によく見知った人間が立っていた。よく見知った人間だが、警戒するに越した事はない。妖夢は素早く鞘に手を沿え、構えの姿勢を取ると間合いを数えた。
「聞きたいことがあるわ。」
目の前の少女は静かに口を開く。妖夢は構えの姿勢を崩さない。変わりに幽々子が応答した。
「なにかしら?」
「…最近ここに来る魂は増えましたか?」
何かと思えばそんなこと。
妖夢は構えの姿勢を取ったままゆっくりと口を開いた。
「何が目的?…ここはいつも通―――」
「増えるはずなのだけれど。」
言いかけた言葉を幽々子が遮った。妖夢は主人が発した突然の言葉にきょとんと首を傾げると、構えていた姿勢をやっと崩し幽々子の方へと振り返った。それを見れば、現れた少女の方も溜め息混じりに話を聞こうと歩み寄る。
「どういうことですか、幽々子様…」
「貴女は分かっているようだから、この子を貸してあげるわ。」
振り返り問うた妖夢を無視して、少女にそう声を掛ける。妖夢は訳の分からないまま二人を交互に見つめた。
「ちょっと、幽々子さまー…」
「ちなみにレンタル料はいらないわよー?」
「必要ならばお嬢様から頂いてください。では、妖夢は借りていきます。」
妖夢は訳の分からないまま少女に手を取られると、幽々子に疑問の目を投げかけて…一瞬にしてその場から消えてしまった。幽々子は二人を見送ると小さく溜め息をして白玉楼の奥へと戻っていく。
「…忙しくなるかしら。」
一つの呟きを残して。
*コメント*
はい、また読んでもらって感謝の極みでございます。
事あるごとに文章が適当になっているのは仕様でございます、あしからず。
幽々子さまのふざけぶりが上手く書けません。
次回、先生!うちの子が悪いんです、だからもう頭突きはしないでください!
君は生き延びることが出来るか。
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