†NOVEL†

「私が知っている異常はないわね。」

 せっかく訪ねてきたと言うのに収穫はなしだった。こっちは忙しい身だってのに。いや、忙しくないけど。

 博麗の巫女、霊夢は闇夜に近付く竹林を越えてここ、永遠亭を訪ねてきていた。紫が言っていたような今後、自分たちにも影響を及ぼす存在について話を聞こうと思ったのだ。正確には、異常がないかを聞きに来たのだが。

「えーりん飲み物ー」
「はいはい、ただいま。」

 二人で話し込んでいると隣の部屋からこの永遠亭の持ち主らしき人物のやる気のない声が聞こえた。話し相手だった永琳はその声を聞くと、すぐに応答して立ち上がると台所の方へと消えていった。

「全く、なにやってんだか。」

 今の向こうでここの持ち主はなにをしているのか、どうせぐーたらしているだけだし然したる興味もなかった。兎も角、用事も済んだ事だしさっさと帰ろう。

「はぁ、紫が夜に動けって言うから動いてみたものの、こうも手掛かりがないとなるとねぇ。」

 溜め息混じりに立ち上がろうとした時、ちょうど永琳がお茶を入れて帰ってきた。永琳は立ち上がろうとしている霊夢を見ると軽く視線を流しながら静止の声を掛けて隣の部屋へと向かっていく。

「まだ二人の兎が帰って来てないけれど、あの二人の話は聞かなくていいのかしら?」
「冗談、アンタが知らないってのにあの二人が有力な情報持ってるわけないじゃない。めんどくさいし、帰るわ。」

 霊夢はそう言うと永琳の静止を振り切って立ち上がり、外へ向かって歩き出した。まだ夜闇は続く。話を聞いて周るより幻想郷を見回った方が異変が見つかるかもしれない。そう思っての行動なのだろう。
 だが、そんな時突然霊夢の前によく見た二人の兎が現れた。

 しかも一人は大怪我状態だった。

「師匠!てゐが…ごめん霊夢、ちょっとそこどいて。」

 てゐを抱きかかえたままの状態で鈴仙は目の前にいた霊夢に声を掛けて道を開けてもらうと慌しく部屋に入ってきた。一方てゐは怪我してる部分こそは痛そうに顔を歪めてはいるものの、どうやら瀕死という訳ではないらしい。

「あら、お帰りなさい。どうしたの?」
「話は後でします、とりあえずてゐを診てください!」
「てゐを…?……っ、ええ…そこに寝かせなさい。」

 鈴仙は言われたとおりに先程まで霊夢が座っていた場所にてゐを横たわらせる。永琳は横になったてゐの傷や怪我の具合を見ながら鈴仙に必要な薬品の説明をしていた。一通り診断が終わると、永琳に言われた薬を取りに行くのか鈴仙は廊下の向こうに走り去っていった。
 霊夢はそんな二人のやり取りを横目で見つめると、帰るつもりだった足を再び部屋に戻し邪魔にならないようにてゐと永琳から少し離れた位置に再び腰をおろす。二人には悪いが願ってもいないことだった、どうやら有力な情報が一つ手に入りそうだ。

「ねぇちょっとさ。その怪我、誰にやられたの?」

 横たわっているてゐに向かって霊夢は話し掛ける。てゐはその問い掛けに応じ、身体の節々が痛いのか弱々しい声を霊夢へと返した。

「んー…竹林で竹から落ちた。」
「そ。どの竹?」
「黒いの。」
「ふーん…、その竹いつからあったの?」
「知らない。」

 ふぅ、と…質問に即答してくる相手の言葉を聞き取りながら最後に溜め息を吐く。どうやら有力な情報に間違いないようだ。
 要約するとこうだ。
 ここに来る途中の竹林で何者かに襲われた。顔ははっきり見えなかったが黒い格好が特徴らしい。そして幻想郷に長くいるてゐも見た事がない者だと言う事だ。

 ふむ、と霊夢はてゐの言葉を聞いて考え込んでいると、廊下の向こうから薬品を持って鈴仙が慌しく戻ってきた。

「師匠ー、これでいいですかー?」

 鈴仙は持ってきた幾つかの薬品を永琳に渡すと、永琳の処置を見るためかその隣に腰を下ろした。

「優曇華、何があったのかを話しなさい。」
「…その話、私にも聞かせなさい。」

 永琳の言葉に鈴仙は反応する。それを見た霊夢は自分から話を切り出す必要がなくなったので、二人の後ろから一言そう言うと勝手に新たな座布団を持ち出しては自分の下に敷き、その上に正座する。
 鈴仙はついさっきあったことを話し始めた。

「この子の帰りが遅いので、探しに行ったって言うのは…師匠から言われたことなので分かってると思うんですけど、その後…ですね。」
「ええ。」

 確認するようにそう言えば、怪我をしているてゐに視線を落とし言葉を続けた。

「その後、竹林でこの子の影を見かけたので声を掛けようとしたんですが、強い妖気を感じたのと…その時にはこの子、もうこの状態で…。」
「で、どうしたの?」
「助けに入りました。危ない状態だったので…、相手は…」
「聞いたわ。その相手をどうしたの?」
「…倒しました。」

 どうやら話はそれだけのようだ。鈴仙が倒せる相手、その鈴仙も無傷というなら大した相手ではない。

「…それと、妙なことを言ってました。取り込む、とかなんとか。」

 最後にその言葉を聞くと、霊夢は正座をしたままぴくっと身を強張らせた。ただ相手を倒すわけではない、強さ的にはどうと言う事もない相手のようだが、その能力…取り込むという言葉が気になった。

「どう思う?」

 ふと、鈴仙の話を聞いた永琳は霊夢に意見を求めた。

「まだなんとも言えないわね。とりあえず、私がそいつに逢えたなら一番良いんだけど…倒しちゃったみたいだしねぇ。」
「…、霊夢。」

 年寄り臭く、よいしょ…と声を上げながら霊夢は立ち上がってそう言うと、どうやらこれ以上の情報は手に入らないと悟ったか永遠亭を出ようとして、背後から鈴仙に呼び止められた。

「あれで終わりとは思えない。嫌な予感がするからもう一度竹林を調べてみて。」
「アンタの予感が当たるわけないでしょ。」

 振り返らずにそう言って片手を上げると、霊夢は鈴仙の言葉を流してそのまま永遠亭を出た。
 そんな軽い口調で言ったものの、他に手掛かりもないので言われたとおり竹林を調べてみるつもりなのだ。

 もちろん、めんどくさいので日を改めて。










*コメント


はいそこ、一つ一つの話が短いとかいわないー。長いの書かせたらしばらく更新できないからね。
麒麟です。はい。
霊夢二回目の登場。そんなこと言ったら鈴仙もてゐも連続登場ですが。
更新速度はこれからグングン下がります。(ぇ)
だって就職活動が…、だって卒業研究が…。
(生々しくてゴメンナサイ、俺も人間なんです…←謎)



次回、あなたに幸せを…ってことでどすか、ゲロゲーロ。

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